このシリーズの前回記事で書いたとおり、1970年に筑波サーキットへ練習走行を観に行った私たち「カーキチ中学生トリオ」ですが、その時一番印象に残っているのが「軽自動車」を改造したレースカーでした。
当時の軽自動車といえば、1967年に登場したホンダ「N360」が火付け役となって始まった「高馬力競争」のまっ最中で、スズキからもN360の対抗馬として、当時としては驚異的な「リッターあたり100馬力」最高出力36psの2ストローク3気筒エンジンを搭載した「フロンテ360SS」が発売されていた。
↑ホンダN360。それまでの軽は最高出力20ps程度だったところに、31ps/8,500rpmという高回転型4ストローク2気筒エンジンを引っ提げて登場。その後の「軽自動車ハイパワー競争」の引き金となった名車である。
この私も20歳の時に
自分の1台目の愛車を全損させてしまった後、友人が持っていたこのクルマを数日間借りて運転したことがあるのですが、バイクのようなエンジンフィールと、やはりバイクのような常時噛合い式ドグミッションのシフトタッチがとても心地良く、運転していてとても楽しいクルマだったという印象が強く残っている。
↑そしてこちらがスズキフロンテ360SS。前述のとおりリッターあたり100psを絞り出す2ストローク3気筒エンジンをリアに搭載していたが、高回転型2ストロークエンジンの宿命として、低回転域のパワー不足が顕著であったようだ。
↑これがそのフロンテSSのタコメーター。8,000rpmからイエロー、8,500rpmからレッドゾーンというのはわかるが、なんと!0~4,000rpmもイエロゾーンとなっている。まぁ言ってみれば「4,000rpmから8,000rpmの間を使って走りなさい!!」とメーカーで指示しているようなもの(笑)。
残念ながら私はこのクルマを運転したことはないが、当時街中でよく見かけたフロンテSSは、信号からの発進で皆「ウィィィ~ン ウォウ‥‥‥ウウウィィィィィ~~~ン!!」という「半クラッチの鬼」的なサウンドを奏でておりました(^^;。でも2ストローク3気筒特有の音はシビレるものがありましたけどね。
で、我々が筑波サーキットへ行った時、ちょうど軽自動車の練習走行時間帯で、ここでも「N360vsフロンテSS」のライバル対決が繰り広げられていて、その改造のされ方がもう物凄くって、とても印象に残っているのです。
どんな風に改造されてたかというと――― これはもう写真があったらそれを載せるのが一番だと思い、ネット上をあちこち探しまくったのですが、何と言ってもまだ「インスタ映え」なんて言葉どころか「デジカメ」や「インターネット」さえ無い時代のお話し、結局1件も画像を見つけ出すことはできませんでした。
画像が無ければ‥‥‥しょーがない、自分で絵を描いてみるか、ってことで、おぼろげな記憶だけを頼りに描いてみました(^^ゞ
まずはN360のレース仕様↓
シリンダー前側にあるエキゾーストポートから出る排気管が、ノーマルではすぐにほぼ直角に曲げられて下に通されているのだけど、レース仕様では直管をまっすぐ前方に突き出して大きなカーブで横方向に持って行き、そこでエンド。
カーキチ中学生トリオの間では「オイ、あのNッコロ、ヒゲはやしてるみたいだぞ!?」などと言っていたが、そのサウンドはもう「爆音」( ゚Д゚);。
まあ排気抵抗を減らすのが目的であろうことは中学生の頭でも理解できたが、直管でこの短さ、そして2気筒なもんだから
「バオ―――ッ!!!!!」って感じの低周波爆音で、ひとことで言うと「うるさい!!」
今のチューニングの常識からいっても、この排気管の短さはパワーアップにはつながっていないのではないかと思われるが、この時筑波サーキットを走っていたN360はほとんどがこんな排気管を装着し、ものすごい爆音を茨城の田んぼの中にまき散らしておりました(笑)。
そしてフロンテSS、こちらはこんなうしろ姿↓
2ストローク空冷3気筒エンジンをリアに積むフロンテのレース仕様はエンジンフードを取り払い、3本のエキゾーストチャンバーがむき出しになっていた。
そしてリアサイドの空気取り入れ口後部にはカバーを取り付け、エンジン冷却用のフレッシュエアを取り込む工夫が施されていたように記憶している。
これを見たカーキチ中学生トリオ曰く「オイ、見ろよあのフロンテ、うしろに大根3本ぶら下げてるぞ!?!?」
そう、これを見た私は、この大根状の排気管にはどのような意味があるのか知りたくなったのだが、当時は今と違ってインターネットなど無く、調べるには大変な労力を必要とした。
最終的には本屋に足繁く通って立ち読みしまくった(←オイ(^^;)結果、これは「エキスパンションチャンバー」と言って、高出力を求めてチューニングされた2ストロークエンジンに装着することによって、その排気脈動を利用し一旦排気ポートから出てしまった未燃焼混合気を再度燃焼室内に押し戻す効果が得られるという、2ストロークエンジンのチューニングの定番アイテムであることを知った、という次第であります。
で、このようなチャンバーを装着したフロンテのサウンドは、それはもう
「ビィィィィ―――ン」という高周波の音で心地良い感じもしたのだが、目の前を通り過ぎてうしろ姿になった途端に大音量となり、やはり「うるさい!!」と感じたと記憶している。
そして、2ストロークエンジンということで「ひまし油」系のレーシングオイルを使用していたのだろうか、フロンテが通り過ぎた後に漂う独特のオイルの焼けた臭い――― なんだがクセになりそうな「いい香り」に感じたこともはっきりと記憶している。
そんな感じで、その交通アクセスの悪さから2回で終了となってしまった筑波サーキット通いですが、当時中学生の私が初めてレース場の雰囲気を味わうことができた、とても重要な体験となったのでありました。
(このシリーズはもう少し続きます)