今回ヴェル様のJBLプレミアムサウンドシステムで聴くのはこのCD↓
ジョー・サンプルのソロ第2弾アルバム「CARMEL」(邦題「渚にて」)。
‥‥‥最初にお断りしておくが、今回の話はちょっと複雑で、その論点も多岐に渡るので、もはやカーオーディオの話題から完全に逸脱してしまっていると思われる。
まず、このアルバムと私の出会いは、今から37年ほど前の1979年まで遡る。
当時私は会社勤めをしていたのだが、同僚にいわゆる「音楽マニア」がいて、ある日その彼が発売されて間もないこのアルバムを持ってきて「これ、聴いてみなよ」と私に貸してくれたのだった。
当時はCDがまだ出ていなかったのでアナログのLP盤で、それをカセットテープに落として、当時の愛車
「3代目トランポ・タウンエース」のカーオーディオ(というか当時は「カーステレオ」と呼んでいた)でよく聴いたものだ。
ちなみにその3代目タウンエースのカーステレオはというと、安物よりちょっと上の価格帯のカセットデッキに、たしか16cmの2ウェイだったと思うが、やはりそこそこの値段のスピーカーを繋いだもので、当時の私にとってはけっこう満足できる音を奏でてくれていたものである。
で、このジョー・サンプルのアルバムを見て、最初は「ピアノっすか!?」という感じであまり期待はしていなかったのだが、聴いてびっくり!! こんなにも激しく、そして優しいピアノの響きはかつて聴いたことがなかったもので、もう完全にハマってしまい、それこそ使い古された表現だが「テープが擦り切れるまで」何度も何度も聴きまくり、今でも全楽曲の各楽器のフレーズが全て脳内に「完コピ」されているような状態なのだ。
その音楽的な素晴らしさの具体的な内容は後で述べるが、当時聞いた感じではとにかく音も良かったことが印象に残っていた。
それから十数年の時が流れ、オーディオの主流はCDになり、私の愛車も
6代目ハイエースになり、そのフルデジタルのカーオーディオで再びこのアルバムを聴きたくなって、’92年頃にCD化されたこのアルバムを買って、DATにダビングして聴いていた。
そして今、ヴェル様のJBLプレミアムサウンドシステムでそのCDを聴くことになったのだが‥‥‥
話がやっとここまで辿り着いたが、ここはまだこの話の第一段階で、まだまだ先は長い。
じつは最初に聴いたCDは、この記事の最初の画像の物ではない。おそらく’85年にCD化されたものと思われる。
ヴェル様のJBLプレミアムサウンドシステムで聴く「CARMEL」は、その楽曲の良さを再認識させてくれたものの、今ひとつ感動できなかったのだ。
その原因は「音があまり良くない」という事実。
まず、何といっても「音が硬い」。特にドラムの音が硬すぎて、革が振動する空気感のようなものが欠如している感じなのだ。
そして、シンバル系の音も金属の響きが感じられず、ハイハットなどが耳障りな「擦過音」になってしまっているパターンが多い。
さらには、音場の左右の広がりも不足気味だし、各楽器の分離も今ひとつという感じなのだ。
ここで私は勝手に納得した。
そうか、これがいわゆる「CDの硬い音」ってやつか―――、と。
CDが出た当初は「デジタル信号だから音の劣化がない」とか、いろいろ良い事ばっかり言われてたけど、しばらく経ってから実はCDの音は20kHz以上がカットされているから良くないとか、アナログと比べると音が硬いとかいろいろ言われ出して、現在では「音質が良い」という触れ込みの「SHM-CD」や「Blu-spec CD」なんかかどんどん発売されてますよね。
このCDは「CD黎明期」にCD化されたものだから、音質を良くするためのノウハウが全く盛り込まれていないので、音が良くないに違いない――― そう考えた私はすぐにネット上を探しまくり
「レアメタルの最高峰から生まれた“規格外”の音」プラチナSHM仕様のこのアルバム(2014年12月発売)を手に入れたのだった。
そう、最初の画像はそのプラチナSHM仕様のものだったのです。
↑上がプラチナSHM仕様で、下はずっと昔に買った普通のCD。
普通、CDにはこのロゴ→
が付いているものだが、上のプラチナSHMの方にはそれがない。
記録面の反射率などがCDの規格から外れるためで、そこが「“規格外”の音」たる所以である。
そのプラチナSHMの凄さの説明は‥‥‥書くのが面倒なのでこの下の画像をご覧ください↓
さあ、いよいよこのプラチナSHM仕様のCARMELを聴く時がやって来た。
JBLプレミアムサウンドシステムから最初の音が出た瞬間「おお!やっぱりプラチナSHM仕様は音がいいぞ」と思ったが、どうやらそれは単なる思い込みで、聴き続けているうちに「あれ!?あんまり変わらないんじゃ‥‥‥???」と思い始めるようになった。
そこで、あらためて通常のCDと聴き比べてみることにした。
その結果は‥‥‥
残念ながら私の耳では、ほとんど両者の違いは判らないという「衝撃的な結果」でした。
しいて言うならば、プラチナSHM仕様の方がシンバルの音の金属の響きが少しだけ良くなっている気がするのと、ドラムの革の震えの空気感が若干アップしているような気がするくらいで、あとはほとんど同じように聴こえるのだった。
じつはこれ、私の早とちりでプラチナSHM仕様のCD化にあたって「リマスタリング」もされているに違いないと思い込んでしまっていたけど、レーベルの説明書きを改めて読み直してみると
「HRカッティング(High Resolution Cutting)/通常のCD用マスター(44.1kHz/16bit)より高解像度なハイビット・ハイサンプリング音源(176.4kHz/24bit)を使って、製造工場にてダイレクトにカッティングする方式です。従来に比べ、マスターの持つクオリティをロスなくCDに収めることができます」と書いてあるではないか。
つまりは、マスター音源そのものは同じものを使っているということ。
しかも、ちょっと小さな文字で
「●おことわり:曲によりお聞き苦しい箇所がございますが、マスター・テープに起因するものです。予めご了承くださいますようお願い致します」とも書いてあるではないか‥‥‥ やられた。こいつは一本取られたね。
以前もどこかで書いたけど、最近流行りのSHM-CDやBlu-spec CDなどは、主に信号の読み取りエラーを少なくすることを目指した技術が盛り込まれているので、実際にそれだけで劇的に音が良くなるはずはなく、それよりもリマスタリングによる音づくりのやり直しの方が劇的な音の変化を伴うはずなのだが、このプラチナSHM仕様のCARMELはマスター音源そのものには手を加えていなかったのだ。
しかもご丁寧に「お聞き苦しい点がありますがマスターテープのせいです」と、暗にマスター音源に難があることを認めてしまっているのだ。
まぁ、プラチナSHM仕様のさまざまな「裏技」によって、高級オーディオで聴く分にはその違いがもっとはっきり判るのかもしれないが、所詮は量産車のオプション装備で不純物たっぷりの普通の銅線をスピーカーケーブルに使っているヴェル様のJBLプレミアムサウンドシステムでは、その違いはほとんど感じられないというわけだ。
ちなみにホームオーディオの方でも両者を聴き比べてみたけど、結果はヴェル様のJBLで聴いた時とまったく同じ感想でありました。
ここでこのアルバムの名誉のために書いておきますが、けっして音が悪いわけではありません。ただ、いい音のCDはどういう聴こえ方をするのか知ってしまった耳で聴くと、本当のいい音はこんなものじゃない、と感じてしまうのです。
ただ、音がイマイチであることはさておき、このアルバムに収められている楽曲とその演奏は、紛れもない超一流のものであることは間違いない。
アルバム全編にわたって繰り広げられるスリリングな演奏――― それはまるでジョー・サンプルのキーボードと、スティックス・フーパーのドラムスやそのほかのメンバーが奏でる各楽器とがバトルしているかのような緊張感を伴いつつも、最終的には見事に溶け合って一つの音楽として完結している‥‥‥ そんな感じなのだ。
その中でも4曲目の「A RAINY DAY IN MONTEREY」(邦題「雨のモンタレー」)は何十年聴き続けても決して飽きることのない、超お気に入りの一曲だ。
サンプルの弾くフェンダー・ローズの音が、心地良いひずみ感を伴って左右に散る優しいイントロで始まるこの曲、エンディングテーマに向かって盛り上がって行く感じがとにかく最高なのだ。
ここでもやはりスティックス・フーパーのドラムスが早い段階からジョー・サンプルを煽りまくり、サンプルの方は敢えてゆっくりと時間をかけて盛り上げていくのだが、その盛り上げていく過程が限りなくどこまでも続くようなエンドレス感を伴っていて、もう聞いているだけで心拍数が上がっていくような高揚感を覚える見事な構成となっている。必聴の一曲だ。
そして残念なことに、この私が大好きなキーボード奏者Joe Sampleは、2014年9月12日に他界してしまった。
ジョーの演奏を生で聴くことはもうできないが、彼はたくさんの素晴らしい演奏をCDに残してくれているので、私はそれをいつでも聴くことができる。
ありがとう、ジョー・サンプル。
PS.
もしも「CARMEL」がリマスタリングされて再発売されたら、また私は買ってしまうんだろうなぁ、きっと‥‥‥