最近、別カテゴリーにて昔を懐かしむ記事を書き始めたせいもあってすっかりご無沙汰の「JBLプレミアムサウンドシステムで聴く」シリーズでしたが、今回取り上げるCDはコレだ↓
まぁこれも「昔を懐かしむ」という意味では同類。以前このシリーズで取り上げた古内東子が「Strength」の次にリリースした、彼女の5枚目のアルバム「Hourglass」だ。
リリースされたのは1996年‥‥‥もう20年以上前のことなのでよく覚えていないことが多いのだけれども、前作「Strength」はCDをレンタルしてDATにダビングして聴いていたのに、このアルバムは発売後すぐにCDを購入している。
なぜこのCDは「レンタル」ではなく「買った」のか記憶が定かではないが、シングルとして先行発売された「誰より好きなのに」をFMで聴いてとても気に入ってしまい、レンタルが開始されるまで待てなかった―――ということだったかもしれない。
そして、ここでひとつ訂正しなければならないことがある。
「Strength」の記事の中で『私はCDを聴く際にまず参加ミュージシャンのクレジットを確認するのが趣味(?)になっているが、この「Strength」に参加しているミュージシャンのクレジットを見て、もうぶっ飛んでしまった』と書いてしまっているが、実を言うと「Strength」、そしてこの「Hourglass」をリアルタイムで聴いていた当時の私には、まだそういった「趣味」は出来上がっていなかったのだ。
「Strength」の場合は、「オマー・ハキムがドラムで参加」という情報は何らかのメディアによって仕入れていたので、そのことに対して「スゲーなおい」と思ったことは事実であるが、当初は参加ミュージシャンのクレジットをちゃんと見ていないので、アルバムの全曲でオマー・ハキムがドラムを叩いていると思い込んでいた――― そんな状態だったのだ。
この「Hourglass」を買った直後も、参加ミュージシャンが誰であるとかそういう細かい事にはあまり拘らずに聴いていて、その楽曲の良さや聴き心地の良さでハマってしまっていたのだが、つい最近になって久し振りにこのアルバムをじっくり聴き込んだ時、このバックの演奏のハンパなさや音創りのクオリティの高さに改めて感動させられてしまい、クレジットを見て「ああ、こんなに凄いメンバーが参加していたんだ‥‥‥」と激しく納得させられたという次第。
ではここで、アルバムのブックレットに記載されている収録曲と参加ミュージシャンのラインアップを転記してみよう。
収録曲
1.いつかきっと2.誰より好きなのに(Album Remix)3.ルール4.心を全部くれるまで5.かわいくなりたい6.おしえてよ7.ユラユラ8.置き去りの約束9.あの日のふたり(Album Remix)10.星空作詞・作曲:古内東子
編曲:
James Gadson(4,5,6,7,8)、
小松秀行(1,2,3,9,10)
ホーンアレンジ:
Jerry Hey(5,8)
参加ミュージシャン
Drums:
佐野康夫(1,2,3,9,10)、
James Gadson(4,5,6,7,8)
Bass:
小松秀行(1,2,3,9,10)、
Freddie Washington(4,5,6,7,8)
E. Guitar:
斎藤誠(1)、
石成正人(3)、
David T. Walker(4,6,7,8)、
Gregg Moore(4,5,6)、David Willams(7,8)
A. Guitar:
斎藤誠(2,9)、
吉川忠英(10)
Piano:
中西康晴(1,2,9)、
Herman Jackson(4,6,7,8)
Keyboads:
小松秀行(1)、
中西康晴(2)、
倉田信雄(3,10)、
Herman Jackson(5,6)
Percussions:
三沢またろう(1)、
浜口茂外也(2,9,10)、
Paulinho Da Costa(4,6,8)、
Munyungo Jackson(5,7)
Horns:
小林グループ(1,2,9)
Trumpet:
Jerry Hey(5,8)、
Gary Grant(5,8)
Trombone:
Lew Mc Creary(5,8)
Saxophone:
Brandon Fields(5,8)
Strinngs:
金原Strings(1,2,9)
Syn. Manipulator:
鈴木直樹(1)、
Herman Jackson(4,7,8)
Male Vocals:
小松秀行(3)
このとおり、「Hourglass」の参加ミュージシャンも「Strength」のそれに決して劣ることのない超一流メンバー。そしてそれが「
日本チーム」と「
LAチーム」という形でそれぞれ5曲ずつ担当し、アルバムの中で対決する――― そんな贅沢なアルバムがこの「Hourglass」なのだ。
各チームごとに共通する音創りの特長についてまとめてみると、まず日本チームの方は佐野康夫のパンチの効いたドラムスと小松秀行のブンブンと唸るベース、このしっかりとしたリズム隊に中西康晴の流れるような美しいピアノの音色と古内東子のヴォーカルがしっとりと絡む展開になっている。
プロデューサーはここでベースを弾いている小松秀行。あまり知られていないが、ベーシストとしてもプロデューサーとしても素晴らしい仕事をしている超一流のミュージシャンだ。
対するLAチームは、James GadsonのドラムスとFreddie Washingtonのベースが曲によって緩急自在のグルーヴを刻み、そこにDavid T. Walkerのギター、Herman Jacksonのキーボード、Paulinho Da Costaのパーカッション等、LAの百戦錬磨のミュージシャンたちの超一流のプレイが加わり、古内東子の伸びやかなヴォーカルをバックで支える、といった内容と言えるだろう。
どちらも素晴らしい演奏を聴かせてくれるが、日本チームの方は力のこもった元気いっぱいのサウンドなのに対し、LAチームは肩の力の抜けたいぶし銀の名演奏を聴かせてくれている、といった印象だ。
もうこれはただの女性ヴォーカルもの、という枠には収まらず、AOR、スムースジャズ、あるいはフュージョンといったジャンルとクロスオーバーしている――― そんな音楽といってもいいのではないだろうか。
以前の「Strength」の記事でも書いたが、古内東子というアーティストの音楽性が、このようなジャンルの音楽ファンをも十分満足させるものだという事を知らない人がとても多い気がするのだが、それは大変残念な事でもある。
アルバム全体の音創りとしては、各楽器やヴォーカルの定位、音場の左右の拡がりや奥行き感、さらには再生周波数帯域のバランス等も含め、とても素晴らしい録音である。
ただ、その演奏も含め、派手さはない地味な印象を受けてしまうのだが、聴けば聴くほどその良さがわかってくる「スルメイカ」のような名盤――― それがこの「Hourglass」というアルバムなのだ。
その中でも私のイチ推しの曲は4曲目の「心を全部くれるまで」だ。
実を言うとこのアルバムの本当の凄さを知ったのはつい最近のこと。ヴェル様のJBLプレミアムサウンドシステムでSDRecのランダム再生にして聴いていた時にこの曲が流れてきたのだが、そのバックの演奏がもうとてつもない「一流感」に溢れていて、心を震えさせられてしまったのだ。
その時は手元にCDのブックレットがなかったのでミュージシャンは確認できなかったが「これはただものじゃないメンバーの演奏に違いない。それも日本の音じゃないな」と直感し、あとでミュージシャンのクレジットを確認して禿しく納得したという次第だ。
Herman Jacksonの優しいタッチのピアノで始まるイントロにJames GadsonのドラムスとFreddie Washingtonのベースが加わると、それだけで音場はゆったりとした心地良いグルーヴに包まれる。そこに古内東子の伸びのあるヴォーカルが重なり、左手ではギターのカッティングがかすかに鳴りつづけ、時おり右からエレキギターの短いフレーズが加わり、後方ではPaulinho Da Costaのパーカッションが響き、Freddie Washingtonのベースは時おり変幻自在のスラップ奏法も交えながらゆったりとリズムを刻む――― ミュージシャンたちは皆、超絶的な演奏テクニックを見せつけるわけでもなく、どちらかというと控えめな演奏に徹しているというのに、この心地良い音空間は何なのだろう‥‥‥ これが超一流の「グルーヴ感」というものなのだろうか。
そして「主役」である古内東子のヴォーカルはその名演奏に負けることなく伸びやかで、特にサビの部分でユニゾンの多重録音がまるで共鳴しているような美しい響きを聴かせてくれる。
この極上のサウンドで満たされた空間にいると、なんだか自分も「一流」の仲間入りをしたような気になってくる。それはまさに「至福の時間」。余韻を残しながら曲が終わると、自然と深いため息をついてしまっている自分に気付き、現実に引き戻される。
「いや~、音楽って本当に素晴らしいですね!」‥‥‥そんな台詞を口にしてみたくなる瞬間だ。
もうこれは文章で説明するより聴いてもらった方がいいのだが、youtubeにアップすると即ソニーミュージックから視聴制限がかけられてしまう状況。なかなか厳しいねぇ。
この曲以外も素晴らしい音楽がたくさん詰まった「Hourglass」。中古品なら1円で販売されていて、ちょっと複雑な心境になる。
‥‥‥こんな感じでこの記事を書いていたところ、なんと!この「Hourglass」がアナログ限定版で再発売されるというニュースが飛び込んできた!!
http://www.110107.com/s/oto/page/TOKO25TH
アナログ盤で再リリースされるということは、ターゲットは「筋金入りのオーディオマニア」ってことですよね!?!?
―――やはり、私の耳に狂いはなかったって事かな(笑)。