1969年頃、カメラをぶら下げて都心に出没しては珍しいクルマを撮りまくる「元祖・カメラ小僧」だった私ですが、デジカメなど存在しなかった当時では「現像代」で小遣いのほとんどが消えてしまううえ、大量の「ボツ写真」をストックする羽目になり、そんなカメラ小僧としての活動はあまり長くは続きませんでした。
その代わりに、カーキチな私が次にとった行動は「ニューモデル試乗会荒らし(笑)」。
新型車が発売されると、週末にディーラーで発表会(&試乗会)が行なわれるのは当時も今も変わらないのだけど、当時中学生で当然運転免許も無く、もちろん新車を買うお金も無いくせに、私は同級生のカーキチ仲間数名と一緒に、図々しくも堂々と(?)ディーラー(当時はディーラーなんて呼び名はなかったが)に押し掛けていたのだった。
まぁ古き良き時代のおおらかさ、とでも言うのだろうか。中学生だけの数名のグループが店にやって来たところで、絶対に新車を買ってくれるお客さんにはならないのに、当時のディーラー‥‥‥いや、自動車販売店はそんなガキどもを暖かく迎え入れてくれて、展示車の中に乗り込ませてくれたり記念品をくれたり、さらに運が良ければそこの店員さんの運転する試乗車に同乗させてくれたりもしたのである(!)。
そんな「試乗会荒らし」のガキにとって、今でも忘れられないのがこのクルマ↓
マツダ カペラロータリークーペだ。
ロータリーエンジン搭載の乗用車としては、やはりマツダのファミリアロータリークーペがすでに大ヒットしていたが、さらに排気量をアップし、パワーも当時としては驚異の120psを絞り出す「12A型」ロータリーエンジンを搭載したこのニューモデルは、とにかくその加速が凄い、と噂になっていた。
そんなカペラロータリークーペの発表試乗会が行なわれていた近くのマツダ販売店へ乗り込んだ私たち「カーキチな中学生3人組」。しばらくは外に置かれた試乗車を眺めながら「カッコイイー!!」などとはしゃいでいたが、そのうち若い店員さんが寄ってきて「横に乗ってみるかい?」と話しかけてくれたのだ。
即座に私は「うん!!」と返事をし助手席に乗り込み、カーキチ仲間二人も後部座席へ。
その店員さん(間違いなくカーキチ)は運転席に乗り込むと、そのカペラロータリークーペのエンジンをかけ、店の前の環七通りへ信号が赤になるタイミングを見計らってゆっくりと走り出した。
片側2車線の環七の交差点、その先頭で信号待ちのため停車していたそのカペラロータリークーペは、信号が青に変わった瞬間に、まさかのフル加速!!
この時の加速感は、それまで味わったことのない感覚だった。
ロータリーエンジンならではの「シュ―――ン」という感じの、スムーズでなおかつ強烈な加速で背中がシートバックに押し付けられ、足の先から血液がスーッと引いていくのがわかった。
当時の市販車でこれを上回る加速力を持つのはポルシェ911だけ、とまで言われたカペラロータリークーペの加速の凄さを、この身をもって体感した瞬間だ。
「ス、スゲー加速!!(@_@;)!!」
同乗させたカーキチ中学生トリオが大興奮するさまを横目でチラッと見て、そのカーキチな店員さんは満足そうな笑みを浮かべていた―――。
いや~~~、今じゃ考えられないようなエピソードですねぇ。
よそ様の子供を試乗車の横に乗せて信号グランプリ‥‥‥ もし事故でも起こしたらどうするんでしょうねぇ(笑)。
でも、乗せてもらったガキ(今は還暦過ぎの爺さん)は大喜びしてたよ。あの時の店員さん、ありがとうね~~~(^^)。
そのカペラロータリークーペが発売されたのが1970年の5月。この年の10月にはこんなクルマも新登場した↓
日産チェリー。当時もちろん童貞だった中学生が乗せてもらうのにふさわしい車名ではあるが(笑)、このクルマのCMの手法は当時話題となった。
正式発表前に「覆面」で外観を隠した姿をさんざん見せておいて興味を煽り、正式発表時にドーンと全貌を明らかにする――― そう、今で言うところの「ティーザー広告」の先駆け的な手法であったが、当時の私は覆面を取った素のデザインを見た瞬間に「え~!?マジでこんなカッコ悪いクルマなの!?!?」と思ってしまった、ちょっと残念なチェリーではあった。
だが、その後のTVCMではFFであることを活かして「サイドターン」をキメるシーンを使い、スポーティーなイメージも前面に打ち出していて、それを見た私は「サイドブレーキを使ってリアをスライドさせるのか‥‥‥カッコイイじゃん、いつかやってみたいぞ」と、クルマの運転なんかまだまだ当分できない中学生の分際で思ってしまうのであった。
で、このチェリーの発表試乗会にも参上した私たち「カーキチな中学生トリオ」。またしてもカーキチと思われる店員さんにすり寄り、試乗させてもらうことに成功したのである。
このチェリーの試乗車を運転してくれた店員さんもやはりカーキチらしく、場所もカペラの時と同じ環七沿いだったので信号からの発進ではフル加速してくれていたが、所詮は1000㏄だか1200㏄の非力なエンジン搭載車、カペラロータリークーペとは比べ物にならない「普通の加速」で特に感動は無し。
ところがだ。環七を少し走って陸橋の下をくぐるUターン道路でそのカーキチ店員さんは大サービスしてくれたのだ。
そう、あのTVCMよろしく「サイドターン」を披露してくれたのである。
もっとも、それほど急カーブな場所でもなかったのでリアが流れたのは一瞬で、運転していた店員さんも「あれぇ、決まんねー」とか言ってたけど、乗っているクルマのリアが横滑りする感覚はこの時初めて体験させてもらった。あの時の店員さん、ありがとうございました!!
余談になるが、当時のチェリーは最初はセダンタイプのみ発売されたが、約1年後にクーペタイプが追加された↓
‥‥‥今見るとなんだか変なデザインだけど、これってたぶん「ロータスヨーロッパ」にインスパイアされた部分もあるのかなぁ???
そして当時、このクルマのヤンチャなオーナーの間では、このテールランプを45度回転させて「ツリ目」にするのが流行ってたんだよね~~~(←同世代の方にはわかりますよね!? あー懐かしい(^^;)
というわけで、1970年頃にちょっとした「マイブーム」となっていた「試乗会荒らし」、今回はその中で特に印象に残っている2台のクルマに関するエピソードを紹介させていただきました。
―――それにしても、今の世の中では絶対あり得ないような話ですよね!?!?
やはり「昔は良かった」という事なんでしょうか‥‥‥