前に書いたとおり、1971年に東京レーシングカーショーで風戸裕本人に直筆でサインしてもらって購入したLPレコード「RACER-レーサー風戸裕」―――それをこのブログで取り上げるにあたり、この貴重な「お宝」を引っ張り出して来た私は、約47年ぶりにこれを聴いてみようという気になったのだが、肝心なアナログプレーヤーは引っ越しの際に処分してしまっていた。
なので、まずはアナログプレーヤーを入手する必要があり、ネット上でいろいろ探しまくった結果こちらの製品を購入した↓
最初はとりあえず音が出ればいいかな、って感じで5,000円くらいの最安値クラスの製品を検討していたが、やはりある程度音への拘りのある製品にしよう、ということでDENONブランドから選び、最終的にはUSBメモリーで簡単にデジタル音源に変換できるこの製品に決めた。
で、再生した音をYoutubeにアップロードするわけだが、まずその前に当方の作業場のオーディオシステムで聴いてみたところ、これが実にアナログらしい、とても良い雰囲気のあるサウンドを吐き出してくれたので、USBメモリーのデジタルデータではなく、このオーディオシステムから再生される空気の震動を録ったものをアップロードしたくなった。
ちょうど先日の百里基地航空祭前に買った
外付けマイクロフォンがあるので、それをスピーカー(DIATONE DS-1000Z)の正面中央に据えて、RX10M4で録ることにした。
そして上記機材でA面・B面すべて収録を完了し、アップロード前にPCで録れた音を確認する段になって、モニターに内蔵のスピーカーではあまりにも貧弱な音しか出ないので、PCの外部スピーカーも購入した↓
外付けスピーカーもAmazonで探すと、聞いたこともないブランドの格安製品がたくさん出てくるのだが、やはりこれもそこそこ良い音を出して欲しいので、国内メーカーで販売している製品を選択した。
このスピーカーをPCに取り付けた上で、RX10M4+外付けマイクロフォンで撮った動画を再生してみたところ、作業場のオーディオシステムで鳴らした時の音場がそこそこ良く再現されていることが確認できた。
欲を言えば、音が左右に移動する「ステレオ感」が不足しているが、これは左右別々にマイクロフォンを2本使用すればもっと良くなるだろうけど、今回はそこまで拘らず、この内容でOKとしよう。
映像はずっとアナログプレーヤーを映し続けていて、A面が終わってB面に裏返す場面以外は変化がない、ほぼ音だけの動画になっているが、このLP盤は購入直後私だけでも何度もレコード針を落として聴いている上、例のカーキチな中学生仲間たちにも貸してやったりして、かなり雑な扱いをされ続けたせいでキズも多く、今回の再生前にはレコードスプレーとクリーナーで何度も清掃したにもかかわらず、再生中「プチプチ」という雑音が酷い、ということはご了承いただきたい。
だが、そのアナログレコードならではの雑音も含め、今のデジタルサウンドには無い暖か味が感じられるサウンドを聴くことができる。
特に、合間合間で挿入される渋谷毅の音楽がサウンド的にもかなりレベルの高いもので、今回約47年ぶりに聴いた私は、ベースの低くうねる重低音がスピーカーから出てきた時に思わず「うおぉ!!」と声を出してしまったほど。
ジャンル的には「ジャズ寄りのフュージョン」といった内容で、特に渋谷毅のオルガンはファンクなジャズテイストたっぷりでノリノリな感じだし、全編で流れる印象的なギターリフもフックが効いていて耳に残る。
そしてこのLPの主役は何と言ってもレーシングカーの走行音だと思うが、風戸が操るポルシェ908がFISCOを走行する車内音は、いかにも空冷らしい「昔のポルシェサウンド」という感じで、シフトダウン時のヒール&トーの音や、割とのんびりとしたシフトアップの様子など、今のレースシーンでは聴くことの無くなった懐かしい音である。
また、30度バンクから須走り落としにかけての走行音を外から録ったサウンドは、まるで第二次大戦頃のレシプロエンジンの戦闘機が急降下してくるみたいで、戦慄さえ覚える迫力だ。
そして、風戸のポルシェが30度バンクでスピンした後、ピット内の緊迫感溢れる慌ただしい様子などがリアルに収録されていて、もしこれがDVDで映像も収録されていたら、素晴らしいレースドキュメンタリーになっていただろうと想像できる。
いや、映像の無い「音」だけでも、このLPは充分素晴らしいドキュメンタリーだ。
1974年6月2日に風戸裕がFISCOの30度バンク手前で事故死してしまった後に、私がこのLPレコードを聴くのは今回が初めてだったのだが、LPが始まってわりと早い段階で風戸がインタビューに答えるシーンで、いきなり彼の「死生観」とでも言うような核心の内容に迫っていて、ハッと驚かされる。
その中で風戸は「死というものは恐ろしい一面もあるけど、人は誰でも一度は死ぬんですから、たとえ死んでもレースに打ち込むことで充実した人生を送れる。それほどまでにレースは素晴らしいものだ」と落ち着いた口調で語っている。
さらには、このLPレコード全編に流れるテーマも「死」。この中では何人ものレーサーやピットクルーの死が、日下武の感情を抑えたクールなナレーションで伝えられる。
そして、このLPレコードの最後を締めくくるのが「闘いの相手は何なのか‥‥‥それはまだはっきりとはわからない。 本当の闘いの相手は何か―――風戸裕がそれを知る日は、決して遠くない」という日下武のナレーション。そしてその後、ポルシェ908がシフトアップしながら遠ざかっていく音がフェードアウトして、このレコードは終わっている。
今、改めて聴いてみると、なんと暗示的な内容なのだろう、と驚かされる。
そして最後は、ポルシェ908に乗った風戸が天国に向かって加速しているように聴こえてしまう‥‥‥。
風戸裕は1974年6月2日に開催された「富士グラン・チャンピオンシリーズ第2戦」のヒート2でローリングスタートが切られた直後、このレコード中でも語っていた「1本しかラインがない30度バンク」への進入ラインの奪い合いが原因の多重衝突事故で、25歳の生涯の幕を閉じた。
当時、そのニュースを知った私は「レーサーとしてこれからという時に‥‥‥無念だろうなぁ」と悲しみにくれたが、いま改めてこのレコードを聴いてみて「もしかしたら彼は、レースで死ねて本望だったのかもしれない」と思えるようになった。
1971年の3月29日に東京レーシングカーショーの会場で初めて見た彼がもの凄いオーラを発散していたのは、普通の人間が一生をかけて使うエネルギーを、25年間で燃やし切ろうとしていたからなのかもしれない。