最近急増している「ブレーキとアクセルの踏み間違い」による暴走事故。ブレーキだと思って強く踏み込んでいるのがアクセルペダルなのだからフルスロットルでの急加速になり、運転手本人はブレーキを踏んでいるつもりでさらにアクセルを踏み続け、悲惨な結果となる。
事故を起こしたドライバーは大抵「ブレーキが効かなかった」とコメントしているようだが、踏んでいたのはブレーキではなくアクセルなのだから、強く踏めば踏むほど加速してしまうわけだ。
このような「踏み間違い事故」が多発してしまうのは、右足でアクセルとブレーキの両方を操作するという、現代のクルマのシステムにも原因があるのではないだろうか。
そもそも昔のクルマの運転席フロアには左からクラッチ、ブレーキ、アクセルの順にペダルが3個並んでいて、左足はクラッチ操作に専念し、右足でアクセルとブレーキ両方のペダル操作を担当することになっていた。
そう、基本的にアクセルとブレーキを同時に操作することはあり得ないのだから、このシステムはとても理にかなっていた。
ところが現在ではAT車が普及し、運転席のフロアからクラッチペダルは消えてしまった。
だが、運転に際してドライバーは右足でアクセルとブレーキ両方を操作する事に変わりはなく、それに対して左足は走行中に何もすることがなくなってしまった。
右足にしてみれば「左足はヒマそうでいいなぁ。オレなんかアクセルとブレーキ両方踏まなくっちゃいけないから休む間がないよ」って感じだろう。
もしもクルマが発明された時からクラッチペダルがなかったならば「アクセルは右足、ブレーキは左足」という役割分担が定着していたかもしれない。
今から30年ほど前のことだったと思うが、AT車は「左足ブレーキ」で運転する方が良い、という考えが一部で広がったことがあり、その頃私も「左足ブレーキ」を試してみたことがあった。
この「左足ブレーキ」での運転を試みた人は、おそらく誰もがいきなり大きな壁にぶち当たるはずだ。
そう、教習所でクルマの運転を習い始めた時からずっと、左足はクラッチペダルを踏む時には一気に、そして戻す時にはゆっくりと微妙な操作を行なう、という動作を覚え込まされてきている。
その左足でブレーキペダルを踏むとなると、無意識にクラッチペダルのように一気に踏み込む動きをしてしまい、ガクンと急ブレーキがかかってしまうのだ。
だが、この「最初の壁」は、左足で踏むのはクラッチではなくブレーキなのだ、と意識することですぐにクリアできるのだが、その先には新たな壁が立ちはだかる。
それはクルマの構造的な問題だ。
今のクルマはその設計の段階から、右足でアクセルとブレーキを操作しやすいようなペダル配置になってしまっているのだ。
私の記憶ではAT車が出始めた最初の頃には(左足でも操作しやすいようにかどうかはわからないが)横幅がとても広いブレーキペダルを装着しているクルマもあったような気がするのだが、今のクルマのほとんどは踏み面の小さなブレーキペダルが右側にオフセットされて装着されている。
そのため、左足でブレーキを踏むためには不自然な動きを左足に強いることになってしまうのだ。
数十年前に私が「左足ブレーキ」を試してみた時も、この「壁」のせいで結局断念し、通常の「右足ブレーキ」に戻したという経緯がある。
そんな試行錯誤を経たのちに落ち着いた私の「右足ブレーキ」運転法ではあるものの、冒頭に書いたようにブレーキの踏み間違いが原因と思われる悲惨な事故が頻発していることを考えると、もう一度「左足ブレーキ」への切り替えを検討してみようという気になってきてしまった。
だが、長年身体が覚え込んでいる「ブレーキは右足」という反応を、果たして今から完全に「ブレーキは左足」に書き換えることが可能なのか――― パニックになった時に混乱し、かえって暴走につながってしまう可能性はないのか―――!?!? いろんな考えが頭の中をよぎったりはしたものの、まずはヴェル様での「左足ブレーキ」をとりあえず試してみることにした。
↑これがヴェル様のペダル配置。思ったよりブレーキペダルは右寄りではないのだが‥‥‥